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はじめに:あの日、私は初めて「焦り」を感じた
2022年11月、ChatGPTが公開された日のことを覚えています。
私は何気なくTwitterを眺めていて、「GPTがコードを書いてくれる」というツイートを目にしました。最初は半信半疑でした。でも、実際に試してみると——Flutterのウィジェットコードが、わずか数秒で生成される。エラーハンドリングまで含まれている。PHPのバリデーション処理も、SQLクエリも、驚くほど正確に書かれていく。
その瞬間、正直に言うと、少し怖くなりました。
「これって、私たちエンジニアの仕事、なくなるんじゃないか?」
システム開発全体の管理や品質管理を担当している立場として、チームの若手エンジニアたちの将来も気になりました。10年後、20年後も、システムエンジニアという職業は存在しているのだろうか?
でも、1年以上AIツールと付き合ってきた今、私の考えは大きく変わりました。
AIがエンジニアを不要にするのではない。エンジニアの「役割」が変化するのだ。
このシリーズでは、AI時代を生き抜くために必要な考え方とスキルについて、全6回にわたってお伝えしていきます。
AIがコードを書く時代に起きていること
コーディングの民主化
GitHub CopilotやChatGPTの登場により、コーディングは確実に「民主化」されました。
以前なら数時間かかっていた実装が、数分で完了する。エラーメッセージをコピペすれば、解決策が即座に提示される。「このAPIの使い方がわからない」と悩む時間も大幅に減りました。
実際、私のチームでも変化が起きています。入社2年目のメンバーが、GitHub Copilotを活用して、ベテランと遜色ないスピードでコーディングを進める姿を目にします。
これは素晴らしいことです。
技術的な参入障壁が下がり、より多くの人がシステム開発に携われるようになったのですから。
しかし、問題も見えてきた
一方で、現場ではこんな課題も浮上しています。
- 「AIが生成したコードをそのまま使って、バグを量産してしまった」
- 「動くけど、なぜ動くのか説明できない」
- 「要件定義の段階で齟齬があり、完璧なコードを書いたのに作り直しになった」
AIは確かにコードを書きます。しかし、「何を作るべきか」「なぜそれが必要なのか」は教えてくれません。
むしろ、AIがコードを書いてくれるからこそ、システムエンジニアの本質的な価値が浮き彫りになってきたと感じています。
SEの仕事が「仕様を作る・要件を翻訳する」方向に変化している
コーディングからプロデュースへ
私がシステムエンジニアになった頃、仕事の大半はコーディングでした。設計書を見ながら、ひたすらコードを書く。テストして、バグを直す。それが日常でした。
しかし今、私の仕事の中心は変わりました。
- クライアントの「困りごと」を正確に理解する
- それを技術的に実現可能な「要件」に翻訳する
- チームメンバーが理解できる「仕様」に落とし込む
- システム全体の品質を管理する
- ステークホルダー間のコミュニケーションを円滑にする
つまり、エンジニアから「プロデューサー」的な役割へのシフトが起きているのです。
具体例:ECサイトのリニューアル案件
先日、あるECサイトのリニューアル案件でこんなことがありました。
クライアントからの要望は「カートに入れたときの動きをもっとわかりやすくしたい」というもの。一見シンプルな要望です。
しかし、ヒアリングを重ねると、本当の課題は別のところにありました。
- 実は、カートボタンの位置がスクロールすると見えなくなる
- 商品詳細ページの読み込みが遅く、ユーザーが離脱している
- 決済画面への導線が複雑で、購入完了率が低い
この「本質的な課題」を見抜き、優先順位をつけて提案する。そして、若手エンジニアとAIツールを組み合わせて、最適な実装方法を選択する——これが、今求められているSEの仕事です。
AIは、私が定義した要件を高速で実装してくれます。しかし、「何を実装すべきか」を判断するのは、私たち人間の役割なのです。
「AIを使う側」になるためのマインドセット
1. AIは「同僚」であり「道具」である
AIを脅威として捉えるのではなく、優秀な後輩が入ってきたと考えてみてください。
GitHub Copilotは、24時間働いてくれる新人エンジニアのようなものです。指示を的確に出せば、素晴らしい成果を出してくれます。ただし、任せきりにはできません。レビューは必須です。
2. 「考える時間」を削らない
AIが瞬時にコードを生成してくれるからといって、思考プロセスを飛ばしてはいけません。
むしろ、コーディング時間が減った分、設計や要件定義にもっと時間をかけるべきです。
私は最近、こんなルールを自分に課しています。
- AIにコード生成を依頼する前に、必ず「仕様書の下書き」を作る
- 生成されたコードは、必ず1行ずつ理解してから使う
- 「なぜこの実装が必要なのか」を言語化できるまで、採用しない
3. AIとの対話力を磨く
AIから良い結果を引き出すには、「プロンプトエンジニアリング」のスキルが重要です。
曖昧な指示では、曖昧な結果しか返ってきません。
悪い例:
ログイン機能を作って
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良い例:
Flutterで、以下の要件を満たすログイン画面を作成してください。
- メールアドレスとパスワードでログイン
- バリデーション: メールアドレス形式チェック、パスワード8文字以上
- ログイン失敗時は、エラーメッセージを赤字で表示
- ログイン成功後は、ホーム画面に遷移
- デザインはMaterial Design 3に準拠
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具体的な指示を出せる力 = 要件を正確に理解している証拠です。
これからのシステムエンジニアに求められること
AIが普及した今、システムエンジニアに求められるのは以下の能力です。
✅ 課題発見力
クライアントの「言葉にならない困りごと」を引き出し、本質的な課題を特定する力
✅ 設計思考
システム全体を俯瞰し、最適なアーキテクチャを考える力
✅ コミュニケーション力
技術者と非技術者の間に立ち、適切に翻訳する力
✅ 品質管理力
AIが生成したコードの妥当性を判断し、システム全体の品質を担保する力
✅ 継続学習力
技術トレンドをキャッチアップし、常にアップデートし続ける力
つまり、「コードを書く能力」から「システムを設計し、プロジェクトを成功に導く能力」へ価値がシフトしているのです。
不安ではなく、ワクワクしよう
最初の話に戻ります。
ChatGPTが登場した日、私は確かに焦りました。でも今は、むしろワクワクしています。
なぜなら、AIによって「面倒な作業」から解放され、本当に価値のある仕事に集中できる時代が来たからです。
単純なCRUD処理を書く時間が減り、その分ユーザーのことを考える時間が増える。定型的なバグ修正をAIに任せて、システムアーキテクチャの最適化に時間を使える。
これは、システムエンジニアにとって、むしろチャンスなのです。
次回予告
第2回では、「AIに代替されないSEの基本『課題定義力』と『論理的思考』」について掘り下げます。
AIは解くが、「何を解くか」は人間が決める——この根本的な能力をどう磨くのか、具体的な方法論をお伝えします。
システムエンジニアとして生き残るのではなく、AI時代だからこそ輝けるエンジニアになるために、一緒に考えていきましょう。
【AI時代を生き抜くシステムエンジニア論 - 連載目次】
- AI時代の到来と、SEの役割の変化(今回)
- AIに代替されないSEの基本「課題定義力」と「論理的思考」
- 変わる技術トレンド、変わらない「設計思考」
- AIと共存する時代の"チーム開発力"
- AIを味方につけるためのスキルマップ
- これからも変わらない"システムエンジニアの本質"
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