
目次
はじめに
「明日からどうやって食っていこう...」
38歳、知り合いに誘われて2人で起業。スマホアプリ開発会社の立ち上げ。
私は開発責任者兼営業担当として、ナンバー2の立場で参画しました。
iPhone3GSが発売されたばかりで、まだスマートフォンが世間に認知されていない時代。仕事なんて、あるわけがありませんでした。
毎日10件以上の飛び込み営業。断られ続ける日々。
「起業なんてするんじゃなかった...」
何度も後悔しました。
でも、1年かけて徐々に取引先を開拓し、3年で100社以上のクライアントを獲得。6年後には20名の組織に成長させることができました。
大企業でのマネジメントと、ゼロから組織を作る起業家のマネジメントは、全く違います。
この記事では、企業のナンバー2として学んだ「マネジメントの本質」をお伝えします。
起業して最初に直面した現実
「仕事がない」という恐怖
起業して最初の1ヶ月。
売上ゼロ。
「本当に大丈夫なのか...」と不安で眠れない夜が続きました。
大企業では、会社が仕事を用意してくれます。マネジメントは「与えられた仕事をどう回すか」でした。
でも起業は違う。
仕事は自分で取ってこなければならない。
ナンバー2として、営業の最前線に立つのは私の役割でした。
この当たり前の事実が、こんなに重いとは思いませんでした。
飛び込み営業で学んだ「ゼロから信頼を築く」技術
毎日10件以上の飛び込み営業
「お忙しいところ失礼します。スマホアプリ開発の○○と申しますが...」
「結構です」
ガチャ。
受付で断られる。これが日常でした。
100社回って1社受注できればいい方
最初の3ヶ月で訪問した会社:約900社 話を聞いてくれた会社:約50社 見積もりまでいった会社:約10社 受注できた会社:2社
この数字が現実でした。
戦略の転換:「コンテンツ保有企業」に絞る
むやみに飛び込むのをやめて、ターゲットを絞りました。
出版社や教育関係の、自社でコンテンツを保有している会社
- 書籍をアプリ化する提案
- 教材をデジタル化する提案
- 既存コンテンツの新しい活用法
この戦略が功を奏し、徐々に取引先が増えていきました。
飛び込み営業で身につけた力
1. 訪問前の徹底的なリサーチ
断られ続ける中で気づきました。
「準備不足で訪問しても、話すら聞いてもらえない」
そこから、訪問前のリサーチを徹底するようになりました。
- 企業のウェブサイトを隅々まで確認
- どんな商品・サービスを持っているか
- どんなコンテンツやノウハウを保有しているか
- 業界のトレンドと課題
このリサーチをもとに、「御社の○○というコンテンツをスマホアプリ化することで、新しい顧客層にリーチできます」と具体的に提案できるようになりました。
結果、話を聞いてもらえる確率が大幅に上がりました。
一般論ではなく、その会社だけのための提案。これが受注につながる鍵でした。
2. 瞬時に信頼される話し方
受付で断られないために:
- 第一印象の重要性(服装、表情、声のトーン)
- 30秒で興味を引く自己紹介
- 相手のメリットを先に伝える
3. 断られることへの耐性
100回断られても、101回目で受注できれば勝ち。 精神的なタフネスが鍛えられました。
4. ニーズを引き出す質問力
「何かお困りごとはありませんか?」ではなく、 「○○の分野で、こういう課題を抱えている企業が多いのですが、御社はいかがですか?」
具体的な質問が、具体的なニーズを引き出します。
「一人開発者」から「チーム」へ:採用と育成の試行錯誤
最初はアプリ開発者も私だけ
営業も私、開発も私。
朝は営業、夜は開発。土日も開発。
完全に限界でした。
「このままじゃ倒れる...」
1年目の終わり頃、ようやく最初の社員を採用しました。
運命の出会い:フリーランスのプロフェッショナルたち
社員の採用と並行して、フリーランスで協力してもらえる人も探していました。
そして、人生を変える出会いがありました。
ベテランの開発者とデザイナー
2人とも経験豊富で、技術力が圧倒的に高い。そして、何より人として信頼できる方々でした。
当初は開発やデザインの仕事を依頼していましたが、次第にアドバイザー的な立場で会社に関わってもらうようになりました。
アドバイザーの存在が救いになった
ナンバー2として現場を仕切る立場でしたが、すべての判断を一人でするのは重圧でした。
- この技術選定は正しいのか
- この価格設定は妥当なのか
- この社員の育て方は間違っていないか
社長に相談しても、技術的なことは私の判断に任されます。 相談できる相手がいない孤独。これが、想像以上に辛かったのです。
でも、2人のアドバイザーができたことで、様々なことを相談できるようになりました。
- 技術的な判断で迷った時
- お客様対応で困った時
- 社員のマネジメントで悩んだ時
いつでも相談できる。 客観的な意見をもらえる。 経験に基づくアドバイスをもらえる。
気持ちに余裕を持つことができるようになりました。
今でも続く関係
出会いから15年以上経った今でも、この2人とは何かあれば相談し合える仲です。
ビジネスパートナーを超えた、人生の仲間。
一人で戦わない。信頼できる仲間を持つ。
これが、起業で学んだ最も大切なことの一つです。
採用で失敗した経験
失敗1:スキルだけで判断した
最初の採用では、技術力だけを見て採用しました。
でも、スタートアップに必要なのは:
- 自分で考えて動ける人
- 不確実性に耐えられる人
- ポジティブに問題解決できる人
技術は教えられるけど、マインドセットは変えられない。 この学びは、その後の採用基準を大きく変えました。
失敗2:「誰でもいいから欲しい」で採用した
忙しさのあまり、採用基準を下げて採用したことがあります。
結果:
- 教育に時間がかかりすぎる
- ミスが多く、フォローに追われる
- チーム全体のモチベーションが下がる
「採用は妥協してはいけない」
この教訓は、痛みを伴って学びました。
正しい採用の考え方
1. 「今の会社に合う人」を採用する
大企業経験者が必ずしもスタートアップで活躍するとは限りません。
私たちが求めたのは:
- 自分で仕事を作れる人
- 失敗を恐れず挑戦できる人
- お客様の課題を自分ごとにできる人
2. 「採用=仲間を増やす」という感覚
従業員ではなく、一緒に会社を作る仲間。
この感覚で採用すると、面接の質問が変わります。 「何ができますか?」ではなく、 「何をしたいですか?どんな会社を作りたいですか?」
プレイングマネージャーの極限:営業と開発の両立
6年間、ずっとプレイングマネージャー
社員が増えても、私は営業と開発の両方を続けました。
なぜなら:
- 営業:自分が一番受注できた
- 開発:技術的な判断ができるのが自分だけ
でも、これは大きな間違いでした。
「自分がやった方が早い」症候群
組織が拡大しても、私は現場の仕事から離れられませんでした。
結果:
- 社員が育たない
- 私がボトルネックになる
- 組織の成長が止まる
「マネージャー」と「プレイヤー」は別の仕事
これを理解するのに、3年かかりました。
転換点:「任せる」勇気
ある日、主要顧客の案件を若手に任せました。
最初は不安で、毎日進捗を確認していました。 でも、思い切って1週間、何も言わずに見守ってみた。
結果:
- 若手は自分で考え、お客様に提案した
- 私が思いつかなかったアイデアを出した
- お客様から高評価をもらった
「任せる」ことで、チームは成長する
この経験が、私のマネジメントを変えました。
ゼロから20名:組織拡大で直面した3つの壁
壁1:「なんでも○○さんに聞く」文化
社員が5名を超えた頃から、この問題が顕在化しました。
「○○さん、これどうしますか?」 「○○さん、お客様からこう言われたんですが...」
すべての判断が私に集中。
解決策:判断基準の明確化
- 会社のビジョンを明文化
- 意思決定のルールを作る
- 「この範囲は自分で判断していい」を明確にする
これで、社員が自律的に動けるようになりました。
壁2:創業メンバーと新しいメンバーの温度差
最初の3年で入った社員と、それ以降に入った社員では、温度差がありました。
創業メンバー:会社への愛着が強い、何でもやる 新メンバー:業務として割り切る、指示待ち
解決策:会社の物語を共有する
定期的に:
- なぜこの会社を作ったのか
- どんなビジョンを実現したいのか
- これまでどんな困難を乗り越えてきたのか
ストーリーを共有することで、一体感が生まれました。
壁3:「マネジメント層」の不在
社員が15名を超えた頃、私一人でマネジメントするのが限界になりました。
解決策:中間管理職の育成
- リーダー候補を選抜
- 3名程度の小チームを任せる
- 失敗を許容し、フィードバックを繰り返す
最初は不安でしたが、徐々にリーダーが育ってきました。
起業で学んだ「マネジメントの本質」5つ
1. ビジョンの実現者としての役割
ナンバー2の役割は、社長のビジョンを現場で実現することでした。
- ビジョンを具体的な行動に落とし込む
- 社員に分かりやすく伝える
- 日々の業務とビジョンをつなげる
トップと現場をつなぐ橋渡し役
これが、ナンバー2の重要な仕事です。
2. 「率先垂範」こそ最強の教育
起業当初、私は誰よりも営業し、誰よりも開発していました。
社員に「頑張れ」と言う前に、自分が一番頑張る。
背中を見せることが、最も強いメッセージ
これは、どんな研修よりも効果がありました。
3. 「採用」は最も重要な判断
人を間違えると、すべてが狂います。
- 採用基準を妥協しない
- 「今足りないスキル」ではなく「将来の可能性」を見る
- カルチャーフィットを最優先する
20名の組織で、1人の不適合者が与える影響は甚大です。
4. 「任せる」ことが組織を成長させる
自分でやった方が早い。 でも、それでは組織は成長しません。
- 任せて、失敗させて、学ばせる
- 我慢して見守る
- 失敗を責めず、次にどうするかを一緒に考える
このサイクルが、強いチームを作ります。
5. 一人で戦わない、信頼できる仲間を持つ
ナンバー2の孤独は、想像以上に辛いものです。
上からは社長の期待、下からは社員の要望。 板挟みになる日々。
でも、フリーランスのアドバイザー2人との出会いが、私を救ってくれました。
- 相談できる相手がいる安心感
- 客観的な意見をもらえる価値
- 技術的・マネジメント的な判断の質が上がる
一人で抱え込まず、信頼できる仲間を持つこと。
これが、長く事業を続ける秘訣です。
社長との対立:経営者と現場のジレンマ
成長の影に隠れた問題
6年で20名まで拡大。順調に見えました。
でも、ある問題が徐々に大きくなっていました。
社長が社員に休みの日や夜中に直接指示を出す
最初は緊急時だけでした。 でも、それが常態化していきました。
辞めていく社員たち
「もう限界です...」
3人目の社員が辞める時、そう言いました。
理由:
- 休みの日も仕事の連絡が来る
- 夜中に電話で叩き起こされる
- プライベートの時間がない
社長は「成長のために必要」と言う。 私は「社員を守らなければ」と思う。
ナンバー2として、完全に板挟みになりました。
社員のケアと社長との板挟み
私は間に入りました。
社長に:「このままでは社員が続けられません」 社員に:「もう少し待ってください、改善します」
でも、何も変わりませんでした。
私自身も疲弊していきました。
退職の決断
6年間、ゼロから一緒に作り上げた会社。
でも、このままでは社員を守れない。 自分も壊れてしまう。
退職を決断しました。
この決断は、今でも正しかったと思っています。
起業で学んだ最大の教訓
6年間の起業経験。
成功もあれば、失敗もありました。
最後は社長と対立して退職という形で終わりましたが、この経験は私の最大の財産です。
ナンバー2として学んだこと
1. 「作る」喜びは何物にも代えがたい
ゼロから組織を作る。お客様を開拓する。 この喜びは、雇われマネージャーでは味わえません。
2. トップと現場の間で生きる難しさ
社長の期待と、社員の現実。 その間で最適解を探し続ける。
ナンバー2の宿命です。
3. 理想と現実のギャップ
「こういう会社を作りたい」という理想は簡単。 でも、現実は複雑で、妥協の連続。
理想を追い続けながら、現実と折り合いをつける。 これが、ナンバー2の役割です。
4. 一緒に働く人の大切さ
社長とは最後は袂を分かちましたが、一緒に働いた社員たち、そしてフリーランスのアドバイザー2人は、今でも大切な仲間です。
人とのつながりが、何よりの財産。
これから起業する人へのメッセージ
もしあなたが起業を考えているなら、伝えたいことがあります。
起業の厳しさ
- 最初の1年は地獄です
- 売上がない恐怖に耐えなければなりません
- ナンバー2の孤独との戦いです
でも:
起業の素晴らしさ
- 自分たちのビジョンを形にできます
- 仲間と一緒に何かを作る喜びがあります
- 大企業では経験できない成長があります
成功のために必要なこと
1. 明確なビジョン なぜ起業するのか、何を実現したいのか
2. 諦めない力 最初の1年を乗り越えられるか
3. 人を見る目 誰と一緒にやるかが、すべてを決める
4. 柔軟性 計画通りにはいきません。変化に対応する力
5. 家族の理解 配偶者や家族の協力なしに、起業は成功しません
6. 信頼できる相談相手 一人で抱え込まない。アドバイザーや仲間を持つ
7. トップとの価値観の一致 特にナンバー2として参画する場合、社長との価値観が合わないと必ず苦しむ
まとめ:マネジメントの本質は「人」
38歳から44歳までの6年間。
飛び込み営業、深夜の開発、社員の採用と育成、組織拡大の喜びと課題。
すべてを経験しました。
大企業でのマネジメント、転職先でのマネジメント、そして起業でのマネジメント。
すべてを経験して分かったこと。
マネジメントの本質は「人」
- ビジョンを共有する
- 信頼関係を築く
- 成長を支援する
- 共に困難を乗り越える
そして、一人で戦わないこと。
信頼できる仲間、相談できるアドバイザー、支えてくれる家族。
人とのつながりが、すべての土台です。
次回予告
次回は、「経営者と現場の板挟み問題を解決する」をテーマに、トップとの意見対立への対処法、社員を守りながら会社を前に進める方法について、より深く掘り下げます。
起業時代の社長との対立、そしてその後のキャリアで学んだ「板挟みを乗り越える技術」を具体的にお伝えする予定です。
noteでも公開しています。