
目次
はじめに
「お前は、社長の味方なのか?それとも社員の味方なのか?」
管理職として20年以上働く中で、何度この問いに苦しめられたことか。
- 転職先での社長と生え抜き社員の対立
- 起業時代の社長と社員の価値観の違い
- 現場の声と経営層の方針のギャップ
管理職、特にナンバー2や中間管理職の最大の悩み。
それは、上と下の板挟みです。
上司の期待に応えようとすれば、部下から「経営側の人間だ」と言われる。 部下を守ろうとすれば、上司から「甘い」と言われる。
どちらの味方につくこともできず、孤独に耐える日々。
この記事では、私が20年以上かけて学んだ「板挟みを乗り越える技術」をお伝えします。
板挟みが起こる3つの典型的なパターン
まず、板挟みがなぜ起こるのか。その構造を理解することが重要です。
パターン1:ビジョンと現実のギャップ
経営層:「もっと成果を出せ。スピードを上げろ」 現場:「人が足りない。これ以上は無理です」
経営層は理想を語り、現場は現実を訴える。 その間で、管理職は引き裂かれます。
パターン2:変革と安定の対立
経営層:「新しいやり方を導入しよう」 現場:「今のやり方で問題ない。なぜ変える必要が?」
変化を求めるトップと、現状維持を望む現場。 変革の旗振り役を任された管理職は、両者の間で板挟みになります。
パターン3:短期と長期の矛盾
経営層:「今期の数字が厳しい。何とかしろ」 現場:「無理な目標で社員が疲弊しています」
短期的な数字を求める経営と、長期的な人材育成を考える現場。 この矛盾を調整するのが、管理職の役割です。
私が犯した最大の失敗:「どちらかの味方になろうとした」
起業時代の社長との対立
38歳から44歳まで、起業のナンバー2として働いていた時のことです。
組織が20名まで拡大した頃、深刻な問題が発生しました。
社長が社員に、休みの日や夜中に直接指示を出すことが常態化
最初は「緊急時だから仕方ない」と思っていました。 でも、それが当たり前になっていきました。
「社員を守らなければ」という使命感
3人目の社員が辞める時、私は決意しました。
「もう黙っていられない。社員を守るのが、ナンバー2の役割だ」
社長に何度も直談判しました。
「このままでは社員が続けられません」 「休日や夜中の連絡は、緊急時以外は控えてください」 「プライベートの時間を尊重する必要があります」
対立の激化
社長は言いました。
「甘いことを言うな。スタートアップはそういうものだ」 「俺だって休んでない。社員も同じようにやるべきだ」 「お前は、社員の味方なのか?会社の味方なのか?」
私は反論しました。
「社員が疲弊して辞めていくことが、会社のためになるんですか?」
完全に対立しました。
そして退職へ
6年間、ゼロから一緒に作り上げた会社。
でも、私は「社員の味方」であることを選びました。
そして、退職しました。
今だから分かる、この対応の問題点
当時は「正しいことをした」と思っていました。
でも、今振り返ると、私のアプローチは間違っていました。
なぜなら:
- 社長vs私という対立構造を作ってしまった
- 「どちらかの味方」という二者択一で考えていた
- 社長の立場や想いを理解しようとしていなかった
- 問題解決ではなく、正論をぶつけることに終始していた
板挟みの状況で、どちらかの味方になろうとすることが、最大の失敗だったのです。
板挟みを乗り越える5つの技術
その後のキャリアで、私は「板挟みとの向き合い方」を学び直しました。
現在は、システム開発部全体の統括として、再び板挟みの最前線にいます。
でも、もう疲弊していません。
なぜなら、板挟みを乗り越える技術を身につけたからです。
技術1:「通訳者」になる
板挟みの管理職に必要なのは、どちらかの味方になることではなく、両者をつなぐ通訳者になることです。
経営層の言葉を現場に通訳する
経営層:「もっと成果を出せ」 ↓(通訳) 現場へ:「会社は今、こういう状況で、こういう理由で成果が必要なんだ。みんなの力を貸してほしい」
現場の言葉を経営層に通訳する
現場:「人が足りない」 ↓(通訳) 経営層へ:「現場の状況を数字で整理しました。現在の人員では、品質を保ちながらこれ以上の成果を出すことは困難です。3つの選択肢を提案します」
通訳者は、どちらの味方でもなく、両者の橋渡し役です。
技術2:「対立構造」を「共通の敵」に変える
起業時代の私は、社長vs私という対立構造を作ってしまいました。
でも、本当の構造はこうです。
- 社長も私も、「会社を成長させたい」という目標は同じ
- 社長も私も、「社員に幸せになってほしい」という想いは同じ
- 対立しているのは「方法論」だけ
共通の敵を設定する
「僕たちの共通の敵は、競合他社です」 「社員が疲弊せずに、会社が成長する方法を一緒に考えませんか?」
この視点の転換で、対立から協力へと変わります。
技術3:「両方の立場」で考える訓練
板挟みの苦しみは、「自分がどちらの立場なのか分からない」ことから生まれます。
でも、発想を変えましょう。
管理職は、両方の立場に立てる唯一の存在
経営層の視点:
- 会社全体の数字を見る責任
- 株主や取引先への説明責任
- 将来への投資判断
現場の視点:
- 日々の業務の大変さ
- リソースの限界
- チームメンバーの状態
両方を理解できるからこそ、最適解を見つけられる。
これは、苦しみではなく、強みなのです。
技術4:「感情」と「事実」を分ける
起業時代の私の失敗は、感情的に反応してしまったことです。
社長の言葉にカッとなり、感情をぶつけてしまった。
今なら、こうします。
まず、相手の感情を受け止める
社長:「甘いことを言うな!」 私:「社長が強い危機感を持っていることは理解しました」
次に、事実を整理する
「現在の状況を整理させてください」
- 過去3ヶ月で3名が退職
- 退職理由は全員「労働時間」
- 残っている社員の離職意向調査の結果
- 採用コストと育成コスト
最後に、選択肢を提示する
「3つの選択肢があります」
- 現状維持(リスク:さらなる離職の可能性)
- 働き方の見直し(リスク:短期的な生産性低下)
- 人員増強(リスク:コスト増)
感情ではなく、事実とデータで語る。 これが、建設的な対話を生みます。
技術5:「逃げ場」を持つ
どんなに技術を磨いても、板挟みは辛いものです。
だから、精神的な逃げ場を持つことが重要です。
私の場合:
- 信頼できる相談相手
- 起業時代のフリーランスアドバイザー2人
- 他社の同じような立場の友人
- 社外のメンター
- 家族との時間
- 仕事の愚痴は言わない
- ただ、一緒にいる時間を大切にする
- 趣味の時間
- 完全に仕事から離れる時間
- 没頭できる何か
逃げ場がないと、心が壊れます。
逃げることは、恥ではなく、戦略です。
実践例:現在のポジションでの板挟み解消法
46歳で現在の会社に入社し、システム開発部全体の統括を任されました。
ここでも、当然板挟みに遭遇します。
ケース1:無理な納期要求
経営層からの要求 「このシステム、来月までに完成させてくれ。大口顧客への約束だ」
現場の反応 「無理です。最低3ヶ月は必要です」
以前の私なら 経営層に「それは無理です」と言うか、 現場に「何とかしてくれ」と押し付けるか。
今の私の対応
- 両方の話を聞く
- 経営層:なぜ来月なのか、背景を理解する
- 現場:なぜ3ヶ月必要なのか、根拠を確認する
- 事実を整理する
- 必要な機能リスト
- 各機能の開発期間
- 現在の開発リソース
- リスク要因
- 選択肢を作る
- 案A:最小機能で来月リリース、その後段階的に機能追加
- 案B:外部リソースを投入して2ヶ月で完成
- 案C:顧客に説明して納期を3ヶ月に延期
- 両者を同じテーブルにつける 「経営層と現場で、一緒に最適解を考えませんか?」
結果:案Aが採用され、顧客も納得。現場も納得。
ケース2:新技術導入への抵抗
経営層の方針 「新しい開発手法を導入しよう。生産性が上がる」
現場の反応 「今のやり方で問題ない。新しいことを覚える時間もない」
今の私の対応
- 現場の不安を理解する
- 本当は「変化が怖い」
- 本当は「失敗したら評価が下がる」
- 本当は「今でも忙しいのに、学ぶ時間がない」
- 経営層の意図を確認する
- なぜ今なのか
- どんな成果を期待しているのか
- 失敗のリスクをどう考えているのか
- 小さく始める提案 「まず1つのプロジェクトで試験導入しませんか?」 「失敗しても学びと捉える文化を作りましょう」 「学習時間を業務時間内で確保します」
結果:小規模で成功し、徐々に全体に展開。
板挟みで疲弊しないための心構え
1. 完璧を求めない
両方を完全に満足させることは、不可能です。
60点の解決でも、前に進めればOK
完璧主義が、あなたを追い詰めます。
2. 「時間」を味方につける
今日解決できない問題も、時間が解決することがあります。
- 経営層の考えが変わる
- 現場の状況が変わる
- 外部環境が変わる
焦らず、長期戦で考える
3. 「自分の限界」を知る
どうしても解決できない対立があります。
起業時代の社長との対立は、私には解決できませんでした。
それは、私の能力不足ではなく、価値観の根本的な違いでした。
自分にできることと、できないことを見極める。
できないことは、潔く手放す。
退職も、一つの選択肢です。
4. 「味方」は必ずいる
孤独に感じても、理解者は必ずいます。
- 同じ立場の他部署の管理職
- 過去に同じ経験をした先輩
- 社外の友人
一人で抱え込まない
これが、最も重要です。
起業時代の反省:今ならこうする
起業時代の社長との対立。
今の知識があれば、違う結果になったかもしれません。
当時の私がすべきだったこと
1. 社長の立場をもっと理解する
社長は、会社の生存責任を負っていました。 資金繰り、取引先との関係、将来への不安。
私は、それを理解しようとしていませんでした。
2. データで示す
「社員が疲弊しています」ではなく:
- 労働時間の実データ
- 離職率と採用コスト
- 生産性の推移
- 業界の平均との比較
感情ではなく、事実で語るべきでした。
3. 代替案を用意する
「休日の指示をやめてください」ではなく:
- 緊急時の対応フローを整備
- 営業日の対応力を上げる仕組み
- チームで対応できる体制作り
批判ではなく、提案をすべきでした。
4. 段階的なアプローチ
いきなり「全面禁止」ではなく:
- まず緊急時の基準を明確化
- 次に連絡時間のルール化
- 最後に文化として定着
小さく始めるべきでした。
それでも、退職は正しかった
仮に上記をすべてやったとしても、社長との価値観の違いは埋まらなかったかもしれません。
その場合、退職は正しい選択です。
自分を守ること。 これも、管理職に必要な判断です。
板挟みは「悩み」ではなく「役割」
20年以上の管理職経験で分かったこと。
板挟みは、なくならない
むしろ、管理職の本質的な役割です。
- 上と下をつなぐ
- 理想と現実を調整する
- 短期と長期のバランスを取る
これが、管理職の存在意義です。
板挟みとの向き合い方を変える
「なんで自分だけ苦しまなきゃいけないんだ」
ではなく、
「この調整ができるのは、自分しかいない」
この視点の転換が、すべてを変えます。
まとめ:誰も傷つけずに前に進む
板挟みで疲弊していた私が、今は違う。
なぜなら:
- 通訳者としての役割を理解した
- 対立構造を作らないスキルを身につけた
- 両方の立場で考えられるようになった
- 感情と事実を分けられるようになった
- 逃げ場を持つことの重要性を知った
完璧ではありません。 今だに試行錯誤しながら取り組んでいます。
でも、以前のように疲弊することはなくなりました。
板挟みは、苦しみではなく、自分だけができる貢献
この考え方が、あなたの管理職人生を変えるかもしれません。
次回予告
次回は、「フリーランスという選択肢」をテーマに、管理職を辞めてフリーランスになる決断、精神的な解放と新しい働き方、そして再び組織に戻る判断基準について、私の実体験をお伝えします。
44歳で起業を退職し、フリーランスとして活動した1年間。そして46歳で再び組織に戻った理由。キャリアの転換期に何を考え、どう判断したのか、具体的にシェアする予定です。
noteでも公開しています。