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【管理職の悩み解決シリーズ #5】フリーランスという選択肢 - 組織を離れて見えた景色

はじめに

「もう、組織の中で働くのは無理かもしれない」

44歳の夏、私はそう思っていました。6年間、ナンバー2として会社を20名まで育ててきた。毎日飛び込み営業をして、100社以上の取引先を開拓して、採用も育成も必死にやってきた。でも最後は社長との対立で、すべてを手放すことになりました。

社員への深夜や休日の指示、現場を無視した方針。何度話し合っても変わらない。板挟みの日々に疲れ果てて、私は会社を去る決断をしました。

あの時の私は、もう二度と組織の中では働きたくないと思っていました。組織で働くことの意味も、管理職としての役割も、すべてが嫌になっていたんです。

退職から2週間後の現実

退職してすぐ、取引先から連絡が来ました。

「今までの案件、引き続きお願いできませんか?」

ありがたいことに、3社から継続依頼がありました。会社での実績を評価してくれていたんです。退職前から「フリーランスになっても大丈夫だろう」という目算はありました。でも、実際に声をかけてもらえた時は、本当に救われた気持ちになりました。

最初の1ヶ月は、肩の荷が降りた感覚でした。朝、目覚ましで起きなくていい。社員のトラブル対応で夜中に電話が鳴ることもない。社長との不毛な議論もない。

何より、すべての判断を自分で決められる。これが、こんなにも楽なことだったのかと。

仕事の内容は、会社時代と変わりませんでした。金融機関向けのスマホアプリ開発、Webシステムの開発支援。ただ、立場が変わっただけ。でもその「立場の違い」が、これほど精神的な負担を軽くするとは思いませんでした。

会社員の時は、プロジェクトの成功も失敗も、すべて自分の責任だと感じていました。社員の人生も背負っている。社長と現場の板挟みにもなる。そのプレッシャーから解放された時、初めて「ああ、こんなに疲れていたんだ」と気づきました。

でも、この「解放感」は、実は危険な罠でもあったんです。

フリーランス3ヶ月目の順調さ

最初の3ヶ月は順調でした。既存取引先からの仕事だけで、月の売上は安定していました。会社員時代より手取りは増えたし、時間も自由になった。

取引先とのやり取りも、以前よりスムーズでした。会社の看板ではなく、個人として信頼されている。そう実感できることが、自信につながりました。

「やっぱりフリーランスが正解だったな」

当時の私は、本気でそう思っていました。組織の面倒くささから解放されて、自分のペースで働ける。お金も時間も自由になる。これ以上、何を求めるんだと。

でも、この考えは甘かったんです。

半年後に見えてきた限界

半年経った頃から、違和感が出てきました。

まず、成長実感がない。同じような案件を回しているだけで、新しいチャレンジがない。会社にいた時は、組織を大きくする、新しい分野に挑戦する、採用や育成を通じて人を育てる、そういう刺激がありました。

でもフリーランスになってから、完全に守りに入っている自分に気づいたんです。既存取引先を大事にすることは重要です。でも、それだけでは前に進んでいない。現状維持は、実は後退と同じだということを、徐々に感じ始めました。

次に、孤独感。これは予想外でした。私は一人で仕事をするのは平気なタイプだと思っていました。銀行システム子会社時代から、自分で考えて動くのが好きだったし、一人で黙々と作業することも苦ではなかった。

でも、毎日誰とも話さない日が続くと、じわじわとメンタルにきます。打ち合わせで取引先に行く日はまだいい。でも、一日中自宅で作業する日が続くと、自分が社会から切り離されているような感覚になる。

会社にいた時は、煩わしいと思っていた雑談や、意味のないように思えた会議。それらが、実は人とのつながりを保つ大切な時間だったと気づきました。

そして、一番大きかったのは、自分の限界が見えてしまったこと。

フリーランスの収入は、自分が動ける時間に比例します。どんなに頑張っても、一日は24時間。月の売上には天井がある。組織にいた時のように、チームで大きな成果を出すことはできない。誰かを育てて、その人が新しい価値を生み出すこともできない。

自分一人の力の小ささを、嫌というほど実感しました。

本当の自由とは何か

フリーランスになって9ヶ月頃、ふと考えたんです。

「自分は本当に自由なのか?」

確かに、時間は自由になりました。でも、収入を維持するためには、既存取引先を手放せない。新しいことに挑戦するリスクも取りにくい。結局、目の前の仕事をこなすことに追われている。

会社員時代、私は「組織に縛られている」と感じていました。でもフリーランスになって分かったのは、自分自身に縛られている状態も、同じように不自由だということです。

誰にも頼らず、誰にも頼られず。それは、自由というより孤立に近い状態でした。

組織を離れて初めて、組織の中で働くことの意味が見えてきました。煩わしさの裏には、協力し合える仲間がいる。責任の裏には、信頼がある。板挟みの裏には、両方から必要とされている証拠がある。

でも、当時の私には、もう一度組織に戻る勇気はありませんでした。前の会社での失敗が、トラウマになっていたんです。

転機は突然やってきた

45歳の秋、取引先の一つから提案がありました。

「システム開発部長として、うちに来ませんか?」

最初は断るつもりでした。もう組織の中では働きたくない。そう決めていたから。

でも、担当者が続けた言葉に、耳を傾けました。

「今、うちのシステム開発は課題だらけなんです。プロジェクト管理も品質管理も、きちんとした仕組みがない。でも、社内にはそれを立て直せる人材がいない。あなたの経験が必要なんです」

正社員としての雇用。システム開発部長という明確な役割。プロジェクト管理と品質管理という、私がこれまでずっと取り組んできた分野。

何より、「必要とされている」という実感がありました。

フリーランスとして仕事を依頼されるのと、組織の一員として必要とされるのは、違います。前者は「できる人に頼む」という関係。後者は「一緒に会社を良くしていく仲間」という関係。

そして、前の会社での失敗を活かせるチャンスだと思いました。

前の会社では、私は社長の方針に従うか、社員の味方になるか、という二者択一で苦しみました。でも今回は違う。システム開発部長として、プロジェクト管理と品質管理という専門領域で貢献する。経営と現場の板挟みではなく、専門性で会社に貢献する立場。

それなら、もう一度やってみてもいいかもしれない。そう思えたんです。

再び組織に戻る決断

46歳の春、私は正社員として新しい会社に入社しました。

最初の半年は、正直言って大変でした。フリーランスの自由さに慣れた体に、会社のルールや手続きは窮屈に感じました。定時出社、会議、報告書。「こんなことのために時間を使うのか」と何度も思いました。

でも、徐々に見えてきたものがありました。

プロジェクト管理の仕組みを作り、品質管理の基準を整備していく。最初は反発もありました。「今までのやり方で問題なかった」という声も聞こえてきました。

でも、一つずつ丁寧に説明して、小さな成功体験を積み重ねていく。システムの不具合が減る。納期遅れが減る。お客様からのクレームが減る。

そうすると、現場のメンバーの表情が変わってくるんです。「このやり方、いいかもしれない」と。

これは、フリーランスでは絶対に味わえない喜びでした。自分一人で成果を出すのではなく、チーム全体の能力を底上げする。その過程で、若手が成長していく姿を見られる。

組織の中で働く意味を、もう一度実感できた瞬間でした。

フリーランスと組織、どちらが正解か

よく「フリーランスと会社員、どっちがいいですか?」と聞かれます。

正直に言うと、どちらも正解だし、どちらも不正解です。

フリーランスになって初めて分かったことがあります。自由には責任が伴う。すべて自分で決められる代わりに、すべて自分で背負わなければならない。誰も守ってくれないし、誰かのせいにもできない。

収入が不安定になるリスク、社会保険や年金を自分で管理する手間、孤独との戦い。それらすべてを引き受ける覚悟がなければ、フリーランスは続きません。

でも同時に、組織の中にいることの価値も見えてきました。一人ではできない大きな仕事ができる。チームで成果を出す喜び。若手を育てる面白さ。安定した収入と社会的な信用。それは、フリーランスでは得られないものでした。

私の場合、一度組織を離れたからこそ、組織の中で働く意味を再発見できました。そして今は、システム開発部長として、プロジェクト管理と品質管理という自分の専門性を活かした働き方ができています。

前の会社のように、すべてを背負い込むのではなく、自分の役割に集中する。そんなバランスを、フリーランスの経験を経て学べたと思います。

フリーランスを考えているあなたへ

もしあなたが、組織に疲れてフリーランスを考えているなら、一つだけ確認してほしいことがあります。

それは「逃げ」なのか「選択」なのか、という点です。

私の場合、最初は完全に「逃げ」でした。社長との対立から逃げたかった。組織の面倒くささから解放されたかった。板挟みの苦しさから逃れたかった。

でも、逃げた先に本当の自由はありませんでした。違う形の不自由が待っていただけでした。

フリーランスが輝くのは、自分の強みを活かして、自分で価値を生み出せる時です。組織での実績があり、継続的に仕事を依頼してくれる取引先があり、自己管理ができる。そして何より、一人で働くことを本当に望んでいる。これらが揃って初めて、フリーランスは選択肢になります。

そして、一度フリーランスになったからといって、組織に戻れないわけではない。私のように、新しい視点を持って組織に戻ることもできる。

大切なのは、「組織かフリーランスか」という二択ではなく、自分のキャリアの中で、今どの働き方が最適かを考えることだと思います。

フリーランス経験が今に活きている

現在54歳。システム開発部長として8年が経ちました。

フリーランスの1年間は、遠回りだったかもしれません。でも、その経験があったからこそ、今の働き方ができていると思います。

組織の良さも悪さも、フリーランスの良さも悪さも、両方を経験した。だから、今は組織の中で働くことを、自分で選んでいる実感があります。「他に選択肢がないから」ではなく、「これが今の自分に最適だから」という確信を持って。

そして、フリーランス時代に感じた孤独や限界を知っているからこそ、部下たちにも寄り添えるようになりました。プロジェクトで行き詰まっている若手、組織の中で居場所を見つけられない中堅社員。彼らの気持ちが、以前よりずっとよく分かるようになりました。

今、私は次のステップを考えています。サラリーマンを卒業して、本当の意味で自分のキャリアを自分でデザインする。でも今度は「逃げ」ではなく、「選択」として。そのための準備を、少しずつ進めています。

フリーランスの1年間は、私にとって必要な通過点でした。組織を離れたからこそ見えた景色がある。そこで学んだことが、今の働き方につながっています。

あなたにとっての「最適な働き方」は何でしょうか。今の組織で頑張ることかもしれないし、一度外に出てみることかもしれない。大切なのは、自分で選んでいる実感を持つことだと思います。

次回予告

シリーズ最終回は「50代管理職のキャリア戦略」です。54歳の今、サラリーマン卒業に向けてどんな準備をしているのか。30年以上のキャリアをどう資産に変えていくのか。これまでの経験すべてを活かした、私なりの答えをお伝えします。


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